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2006.07.06 (木)

「 国は薬害肝炎判決を受け入れよ 」

『週刊新潮』 '06年7月6日号
日本ルネッサンス 第221回

提訴から3年8か月、薬害肝炎(C型肝炎)訴訟の判決が6月21日、大阪地裁で言い渡された。大阪訴訟の原告13名の内、女性が12名を占めるように、多くのC型肝炎被害者は、出産時に止血剤として血液製剤「フィブリノゲン」などを投与された女性たちだ。

同様の提訴は、東京、福岡、名古屋、仙台でも行われており、原告総数は97名、大阪地裁の判決は五つある一連の裁判の最初のものである。

判決は、フィブリノゲンの投与とC型肝炎ウイルス(HCV)感染の因果関係を明確に認め、国と製薬会社の三菱ウェルファーマ(旧ミドリ十字)に2億5,630万円の損害賠償支払いを命じた。そのうえで中本敏嗣裁判長は、国は「十分な調査、検討を行わず」「結論ありきの方針の下に、(製薬会社の)申請からわずか10日という短期間で、有効性、安全性、有用性を実質的に十分に確認しないまま」製造承認したと断じ、国の製造承認を「安全性確保に対する認識や配慮に著しく欠けており、違法である」とした。

日本には200万人を超えるC型肝炎患者が存在するが、提訴された5件の裁判の原告は97名にすぎない。理由はカルテが存在しないからだ。

フィブリノゲン製剤は1964年にミドリ十字が製造承認を受け、88年に同社が肝炎感染の危険性を指摘する緊急安全性情報を出すまで大量に使用された。だが、同製剤は77年12月に、米国のFDA(食品医薬品局)が、肝炎感染の危険性が高いことに加えて後天性出血に対する有効性にも疑問があるという理由から製造承認を取り消していた。にもかかわらず、日本の医療行政でも医療の現場でも、このことは全くかえりみられず、お産や手術時の止血剤として多用されたのだ。米国が疑問視した後天性出血に対する有効性について、厚生省がフィブリノゲン製剤の適応除外としたのは、なんと98年になってからだ。こうして日本はC型肝炎大国といわれる国になった。

「HIVよりも辛い」

C型肝炎に感染すると、慢性肝炎から肝硬変発症までに平均で10年、その後さらに5年から10年で肝ガンを併発するといわれる。病いが静かに進行する中で、患者には自覚症状がない。気がついた時には症状はかなり進行し、カルテも破棄されていることが多い。

一連の薬害肝炎訴訟では、カルテの存在する患者のみを原告とした。その結果、全国の原告総数は前述のように97名にとどまった。したがって今回の訴訟は、全国の患者全員を代表する意味合いを持っている。実名を明かし原告となった長崎の福田衣里子さんは、「まだ薬害に遭っていない人々のためにも闘っているのだと、自分自身に言い聞かせた」と語ったが、その言葉は、ごく普通に生活している人が、ごく普通に受けた治療によって薬害に見舞われる、無責任な医療の実態がこの国にはあるのだと指摘していることになる。

大阪判決は患者全員の早期救済につながるのか。東京弁護団の鈴木利廣代表は次のように語る。

「はじめて国による医薬品製造承認の法的責任を認めた点で評価すべき判決です。旧ミドリ十字は85年8月以降について、また国は87年4月以降のフィブリノゲン製剤投与について法的責任があると、判決は製剤投与の時期によって線引きしました。しかし、それ以前の薬務行政についても厳しく指摘していることを評価したいのです」

今後の課題は、全患者救済のために、裁判所が認めた法的責任を国とメーカーの政治的行政的責任及び補償の遂行に、いかに迅速に結びつけていくかだと、鈴木弁護士は語る。

HCVとHIVの双方に感染し、二つの薬害を背負って生きてきた花井十伍氏が語った。

「薬害エイズの裁判でも薬害ヤコブ病裁判のときも、裁判所は国やメーカーを薬害の加害者とは決めつけませんでした。対照的に今回の判決は、国と企業を明確に加害者と断じています。13名の原告のうち、4名の訴えは退けられましたが、その点を差し引いても、この判決を、僕は前向きにとらえたい」

大阪判決を勝訴と評価しつつも、氏は、二つの薬害に苦しむ自分にしか言えないことがあると前置きして次のようにも語った。

「僕の人生、HIVで一回死んだと思っている面もある。死を現実のものとして考える恐怖を、これまで十分に体験してきたと僕は思っています。その僕にして、HIVよりもHCVの方が辛いと思ってしまう」

患者救済に力を尽くせ

花井氏はHCVの辛さを、大別して二つの側面から語った。第一は副作用の過酷さである。

判決言い渡しの前日、大阪市中央公会堂で「C型肝炎大阪訴訟判決前日集会」が開かれ、氏はこう語った。

「僕はインターフェロンを打ってきて、丁度今頃になると熱が上がってきます。頭のなかがクラクラしています。インターフェロンの治療を受けながら生きていくのは不可能だと思うことがあります」

インターフェロンを皮下注射すると、人にもよるが、ほぼ例外なく38度台の高熱に見舞われる。関節が痛み、食欲を失う。吐気と体のだるさに襲われる。気分は落ち込み、前向きの発想など出来なくなる。翌日はとても仕事は出来ない。そこで多くの患者は週末にかけて治療を受けるという。副作用に苦しむ週末のあと、通常の仕事に戻るのは辛いはずだ。

「インターフェロンは一回注射すると、これまでは3日間位しか効果が続かなかったのが、一週間から10日はもつようになりました。人にも、また治療の段階にもよりますが、リバビリンを併用する患者も多い。これが実に剣呑で、猛烈な吐気を催させます。これを一日に4錠、2回にわけて服用します」

こうした治療を半年から1年続ける。苦しい治療の末に約3分の1の患者からウイルスが消えていくが、ここにもう一つの困難が待ち受ける。

「HIVは根治は出来ないけれど、慢性疾患のように、エイズウイルスといわば共存することが可能になりました。けれどHCVの場合、ウイルスが消えなければ結果は明らかです。僕みたいにHIVで一回死んだと思って生きている男はそれでもいいとして、HCVの患者は、主婦や妻として普通に生きてきた女性たちが圧倒的に多い。とても辛い思いをしていると思います。その人たちへのあらゆる支援が必要なのです」

挫けそうな患者を支える日本の体制はまだ不十分だ。医療面のみならず、精神的にも社会的にも、多くの支援が必要なのに、そうしたことが出来ていないと、花井氏は強調する。そういう状況の下で、国が控訴して、再び長い時間を訴訟に費やすことは許されない。控訴することなく、患者救済に力を尽くすことが国とメーカーに求められている。

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「 国は薬害肝炎判決を受け入れよ 」

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